ゲストWi-Fiと社内LANは、どう分ければいい?

SSID名を分けただけでは、どの分離・通信制御が実際に適用されているかは判断できません。SSIDは無線側の入口を分ける仕組み、VLANはネットワークを論理的に分ける仕組みで、分けたあとにどの通信を許可するかは、L3の経路制御やファイアウォール/ACLの設定で決まります。製品によっては、ゲストネットワーク機能がこれらの一部を内部でまとめて設定する場合もあります。実際に何が適用されているかは、使用する製品の仕様と設定で確認します。

ブランドを前提にしない設計手順です。ネットワークの分離は影響範囲を限定する手段であり、認証、機器の更新、端末側の対策、管理者権限の管理といった他の対策を置き換えるものではありません。

1. SSID名を分けることと、分離が適用されていることは別

最もよくある行き違いがここです。SSIDが2つ見えていることは、2つのネットワークに分かれていることの証明にはなりません。

SSIDは、無線でどのネットワークに接続するかを利用者が選ぶための名前です。SSIDを追加すると、来客は「Guest」という名前のほうに接続します。ただし、その2つのSSIDが同じVLAN、同じIPサブネットに割り当てられていれば、接続後の通信は同じネットワークの中で行われます。名前が2つあることと、区画が2つあることは別です。

一方で、製品によっては「ゲストネットワーク」「ゲストSSID」といった名前の機能が用意されており、これを有効にすると、VLANの割り当て、ポートの分離、端末同士の通信の制限、社内ネットワークへのアクセス制限などが同時に設定される場合があります。この場合、利用者が個別にVLANを設計しなくても、一定の分離が適用されていることがあります。

つまり、SSID名を見ただけでは、どの分離・通信制御が実際に適用されているかは判断できません。有効になっている機能と、それが何を設定しているかを、使用する製品の仕様と設定画面で確認します。

また、VLANを分けてIPサブネットも分けたとしても、その間の通信をL3で自由に許可していれば、来客用の区画から社内の資源に到達できます。VLANで分けることは、通信を遮断することとは別の操作です。

VLANを使って社内LANと分離する典型的な構成では、次の3つがそれぞれ決まっている必要があります。どれか1つだけでは、意図した分離になりません。

  1. 無線側で、接続する入口(SSID)をどのネットワークに割り当てるかを決める。
  2. ネットワークを論理的に分ける(VLANと、それに対応するIPサブネット)。
  3. 分けた区画の間で、どの通信を許可し、どの通信を許可しないかをL3の経路制御やファイアウォール/ACLで決める。
これはVLANを使う構成での整理です。物理的に別のネットワークを用意する、ゲスト用のトンネルを使う、ルーティング単位で分ける、といった構成もあります。製品によってはゲストネットワーク機能がこれらの一部を内部でまとめて実装する場合もあります。いずれの場合も、確認することは同じです。どの通信が許可され、どの通信が許可されないのかを、設定した内容から確かめます。

2. 分離を構成する要素と、それぞれの役割

設計を始める前に、どの仕組みが何を担当しているかを分けて把握します。

分離に関わる仕組みと、それぞれが担当する範囲
仕組み担当する範囲単独では担当しないこと
SSID無線で接続するときの入口を分ける。SSIDごとに認証方式を変えられる。SSID名そのものは分離を意味しません。同じVLANに割り当てれば同じ区画です。ただし製品のゲストネットワーク機能が、SSIDの作成とあわせて他の設定を適用する場合があります。
VLAN(IEEE 802.1Q)ネットワークを論理的に分ける。同じ物理配線の上で複数の区画を扱える。区画間の通信可否。許可・遮断はL3側の設定で決まります。
IPサブネット / DHCP区画ごとにアドレス範囲を分け、接続した端末にアドレスを配る。通信の制御。アドレスが違っても、経路があれば通信できます。
L3の経路制御区画をまたぐ通信の経路を持つかどうかを決める。通信内容に応じた細かい制御。
ファイアウォール / ACL区画をまたぐ通信を、送信元・宛先・サービス単位で許可または遮断する。同じ区画の中での端末同士の通信。
同一SSID内の端末間通信の制御同じSSID・同じ区画に接続した端末同士の直接通信を制限する。区画をまたぐ通信の制御。

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同じSSIDに接続した端末同士が直接通信できるかどうかは、区画をまたぐ通信の制御とは別の設定です。来客用のネットワークでは、来客の端末同士が互いに見える状態を許容するかどうかを、個別に判断してください。この設定の名称と対応範囲は機器によって異なります。

3. 何を分けるかを決める

「社内」と「来客」の2つだけとは限りません。オフィスの構成要素を並べて、どこに境界を引くかを決めます。

分離の対象になりやすい区画と、分ける目的
区画含まれるもの分ける目的
業務用従業員のPC・業務用端末、ファイルサーバー、複合機業務に必要な資源へのアクセスを、この区画からに限定する
来客用来客・協力会社の持ち込み端末社内資源への到達を避け、インターネット接続のみを提供する
管理用ネットワーク機器の管理画面へのアクセス機器の設定変更ができる経路を、限られた場所からに限定する
映像・設備用防犯カメラ、録画装置、入退室管理機器、空調制御など映像・設備側の機器を業務用と分け、双方向の到達範囲を限定する

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区画を増やすほど、設定と運用の手間も増えます。管理用の区画を分けるかどうかは、管理を誰がどこから行うかによって判断が変わります。遠隔から管理する必要がある場合、その経路をどう確保するかもあわせて設計します。

映像・設備用の機器は、機器側で更新が受けられる期間や、変更できる設定の範囲が業務用端末と異なることがあります。この違いが、区画を分ける判断の根拠になります。

4. 区画をまたぐ通信のポリシーを決める

分けたあと、どの方向の通信を許可するかを個別に決めます。ここを決めないと、分離の効果は設計者の意図どおりになりません。

通信は方向を持ちます。「業務用から映像用へ」と「映像用から業務用へ」は別の通信であり、片方だけを許可することもできます。次の表は、方向ごとに判断を書き出すための枠組みです。実際に許可する範囲は、業務要件によって変わります。

方向ごとに決めておく項目(値は要件によって変わります)
通信の方向決めること
来客用 → インターネット許可する場合、対象とする通信の範囲。利用時間や帯域の上限を設けるか。
来客用 → 業務用許可するかどうか。許可しない場合、どこで遮断するか。
来客用 → 管理用許可するかどうか。管理画面に到達できる経路を限定するかどうか。
来客用 → 来客用(端末同士)同じ区画の端末同士の直接通信を許容するかどうか。
業務用 → 映像・設備用閲覧や管理に必要な通信のみを許可するか、区画全体を許可するか。
映像・設備用 → 業務用必要な通信があるか。ない場合、遮断するか。
映像・設備用 → インターネット機器の更新や外部サービス連携で必要か。必要な範囲に限定できるか。
各区画 → 管理用管理画面に到達できる送信元をどこまで限定するか。

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「とりあえず全部許可して、後から絞る」という進め方は、絞る作業が実施されないまま運用に入ることがあります。必要な通信を洗い出してから許可を追加するほうが、あとから範囲を確認しやすくなります。

5. 来客用アクセスで、分離とは別に決めること

ネットワークの分け方とは別に、来客用として提供する条件を決めます。

  • 接続時の認証方式。共有のパスワードを使うか、期間や利用者を限定する仕組みを使うか。
  • 共有パスワードを使う場合、変更の頻度と、変更時の周知方法。
  • 利用条件をどのように提示するか。接続時に表示する仕組みを使うかどうか。
  • 利用できる時間帯や帯域の上限を設けるかどうか。
  • 接続の記録をどこまで残すか。保存期間と保存場所。
  • 来客用の帯域が業務用を圧迫しないよう、上限を設けるかどうか。

これらは、無線機器やゲートウェイの機能によって実現できる範囲が変わります。必要な条件を先に決めてから、対応できる機器を確認する順序にすると、機器の機能に合わせて要件が変わることを避けられます。

記録の保存については、社内の規程や取引先との取り決めで求められる場合があります。ネットワーク側だけで決められない項目のため、早い段階で確認しておくと構成の変更を避けられます。

6. 分離だけでは満たせないこと

ネットワークを分けることは、影響範囲を限定する手段です。それ自体が安全な状態を作るわけではありません。

区画を分けると、ある区画で起きたことが他の区画に及ぶ経路を減らせます。これは有効な対策ですが、次のような領域は分離では扱えません。

  • 利用者の認証と、権限の管理。誰がどの区画に入れるかは、分離とは別に管理します。
  • 端末側の対策。区画の中に持ち込まれた端末の状態は、区画を分けても変わりません。
  • 機器やソフトウェアの更新。管理画面や機器そのものに既知の問題がある場合、区画を分けても残ります。
  • 管理者権限の扱い。設定変更ができる人と経路の管理は、分離とは別の対策です。
  • 許可した通信の中身。許可された経路を通る通信は、分離では止まりません。
  • 設定の誤り。区画をまたぐ許可設定を広く取りすぎていれば、分けた意味が薄れます。
したがって、「VLANで分けたので安全」「SSIDを分けたので分離できている」とは書けません。分離は、他の対策と組み合わせて初めて意図した効果になります。設定した内容が意図どおりかどうかは、実際に通信を試して確認するのが確実です。

無線LANのセキュリティについては、設計から運用までを通した考え方が公的機関の文書として公開されています。中小規模の組織における情報セキュリティ対策全体の進め方についても、国内の公的機関がガイドラインを公開しています。分離の設計と並行して参照できます。

7. 実装前に確認すること

設計した分離が、手元の機器で実現できるかを確認します。

  • 製品に「ゲストネットワーク」に相当する機能がある場合、それを有効にすると何が設定されるか。VLAN、端末同士の通信の制限、社内ネットワークへのアクセス制限のどこまでを含むかは製品によって異なります。
  • スイッチがVLANに対応しているか。管理機能のない機器では設定できません。
  • アクセスポイントが、SSIDごとに異なるVLANを割り当てられるか。割り当て方は機器によって異なります。
  • アクセスポイントを収容するスイッチのポートが、複数のVLANを扱える設定になっているか。
  • 区画ごとのIPサブネットとDHCPを、どの機器で提供するか。
  • 区画をまたぐ通信の制御を、どの機器で行うか。ルーター側か、ファイアウォール側か。
  • 同じ区画内の端末同士の通信を制限する機能があるか。名称と対応範囲は機器によって異なります。
  • 既存の配線と機器で実現できるか。実現できない場合、どこを入れ替える必要があるか。

既存環境に後から区画を追加する場合、途中のスイッチが1台でもVLANに対応していないと、その先で分離が維持されません。経路上のすべての機器を確認してください。

設定後は、意図した通信ができること、意図していない通信ができないことの両方を確認します。許可のテストだけを行い、遮断のテストを省略すると、設定漏れが見つかりません。

8. よくある行き違い

現場で起きやすい認識のずれ
よくある認識実際にはどうか
SSIDを分けたので社内LANと分離できているSSID名だけでは判断できません。同じVLAN・同じIPサブネットに割り当てられていれば同じ区画です。製品のゲストネットワーク機能を使っている場合は、その機能が何を設定しているかを確認します。
VLANを分けたので通信できないVLANは論理的に分ける仕組みです。区画をまたぐ通信の可否は、L3の経路制御やファイアウォールの設定で決まります。
IPサブネットが違うので到達できないアドレス範囲が違っても、経路があれば通信できます。
来客用は分けたので、来客の端末同士も分かれている同じ区画に接続した端末同士の通信は、別の設定で制御します。
カメラは業務ネットワークと別のスイッチなので分かれている物理的に別のスイッチでも、上位で同じ区画につながっていれば同じネットワークです。
分離したので、機器の更新は後回しでよい分離は影響範囲を限定する手段です。機器やソフトウェアの更新を置き換えるものではありません。

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9. 分離の構成図

入口(SSID・有線ポート)から区画、通信制御までの関係を図にすると次のようになります。

SSID・有線ポートから区画への割り当てと、区画をまたぐ通信を制御する位置
  1. 接続の入口

    業務用SSID
    • 従業員の無線端末
    来客用SSID
    • 来客・協力会社の持ち込み端末
    有線ポート
    • PC・複合機・カメラなど、ポートごとに割り当てを決める
  2. 境界: 入口をどの区画に割り当てるかを決める

    区画への割り当て(VLANとIPサブネット)

    業務用の区画
    • 業務用VLAN
    • 業務用IPサブネット
    来客用の区画
    • 来客用VLAN
    • 来客用IPサブネット
    映像・設備用の区画
    • 映像・設備用VLAN
    • 映像・設備用IPサブネット
  3. 境界: 区画をまたぐ通信はここで許可・遮断を決める

    区画をまたぐ通信の制御

    L3の経路制御 / ファイアウォール・ACL
    • 方向ごとに許可・遮断を決める
    • 許可する通信を必要な範囲に限定する
    • インターネットへの出口も同じ位置で扱う

入口を分けただけ、区画を分けただけでは意図した分離になりません。3段目で何を許可するかまで決めて、はじめて設計が完成します。実際にどの機器がどの段を担当するかは構成によって変わります。この図は特定の製品構成を示すものではありません。

次に進める先

分離の方針が決まったら、それを支える構成側の条件を確認します。