会社にWi-Fiを入れたい。何から選べばいい?

「会社にWi-Fiを入れたい」という段階では、まだ製品を選びません。従業員数や「家庭用/法人用」というラベルだけでは、必要な構成は決まらないためです。先に整理するのは、同じ時間帯に接続する端末、電波を届ける範囲と建物の構造、業務で流れる通信の内容、来客用と社内用を分けるかどうか、有線で接続する機器とLANケーブル経由の給電、そして誰がどこから運用するか、の6つです。この6つが決まると、1台の機器にまとめる構成で条件を満たせるのか、ルーター・スイッチ・アクセスポイントを役割ごとに分ける構成を検討するのかが判断でき、そこで初めて製品の比較に入れます。

このページが扱うのは、最初の分岐までです。台数の算出、来客用の分離設計、ネットワーク全体の構成、複数拠点の管理は、それぞれを担当するページに送ります。特定のメーカーや型番の優劣は扱いません。

1. 会社のWi-Fiを構成する4つの役割

「Wi-Fi」と一言で呼んでいる部分は、実際には複数の役割に分かれています。役割を分けて見ると、何を比較しようとしているのかがはっきりします。

会社のネットワークを構成する役割と、その役割で確認すること
役割担うこと確認すること
インターネット回線事業所と外部のネットワークをつなぐ契約している回線の種類、終端装置の設置場所
ルーター / ゲートウェイ内部と外部の境界で、経路と通信の制御を担う接続する利用者と拠点、必要な通信制御、外部拠点との接続の要否
スイッチ有線の機器とアクセスポイントを収容するポート数、必要な速度、LANケーブル経由の給電の要否
アクセスポイント無線の電波を提供し、端末を収容する電波を届ける範囲、同時に接続する端末、設置位置と給電

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家庭向けとして売られている「Wi-Fiルーター」は、この4つのうちルーターとアクセスポイント、機種によってはスイッチの役割の一部を、1台にまとめた製品です。一方、法人向けとして売られているアクセスポイントは、このうち無線の部分だけを担当し、経路の制御や給電は別の機器が担当します。

そのため「Wi-Fiルーターとアクセスポイントのどちらがよいか」という問いは、そのままでは比較になりません。先にあるのは、役割を1台にまとめるか、機器ごとに分けるかという構成の選択で、製品の区分はその結果です。

製品の呼び方と実際の機能の対応は、メーカーによって異なります。「アクセスポイント」と書かれていても経路の制御機能を持つ機種、「ルーター」と書かれていても無線を持たない機種があります。その機器が実際に何を担当するかは、各製品の仕様で確認します。

2. 1台にまとめる構成と、役割を分ける構成

「小さい会社なら家庭用のWi-Fiルーター1台で十分か」という問いの答えは、会社の規模ではなく、満たすべき条件で決まります。

1台にまとめた構成は、設置する機器も、設定と管理の対象も少なくなります。事業所が1つの区画に収まり、同じ時間帯に接続する端末が少なく、来客用と社内用を分ける必要がなく、有線で接続する機器も本体のポート数に収まる場合には、この構成で条件を満たせることがあります。

一方、次のような条件が出てくると、1台では条件を満たせなくなるか、満たせても運用が難しくなります。役割を分ける構成を検討する分岐点は、規模ではなくここにあります。

  • 1か所の設置位置からでは電波が届かない範囲がある。フロアが分かれている、区画が細かく仕切られている、電波を通しにくい構造や建材がある、といった場合です。
  • 同じ時間帯に接続する端末が増え、電波は届いているのに通信の品質が落ちる。
  • 来客用と社内用を、SSIDを分けるだけでなく、ネットワークとしても分ける必要がある。
  • 有線で接続する機器が増え、必要なポート数が本体のポート数を超える。
  • 電波を届けたい位置に電源がなく、LANケーブル経由で給電したい。
  • 設定の変更や状態の確認を、機器の設置場所まで行かずに行いたい。拠点が複数ある場合は特に該当します。

逆に、これらの条件が1つも当てはまらない場合、この段階で役割を分ける構成にしなければならない理由は出てきません。「法人向け」と書かれた製品であることや、従業員数が一定の数を超えたこと自体は、構成を決める根拠にはなりません。

ここで比べているのは製品の優劣ではなく、構成が条件を満たすかどうかです。家庭向けの製品は業務では使えない、法人向けの製品でなければならない、といった一般化はできません。この段階で判断できるのは、上に挙げた条件に対してその構成で足りるかどうかだけです。

3. 製品を見る前に決める6つの入力

見積りや製品の比較に入る前に、次の6つを整理します。ここが埋まらないうちは、どの製品が条件を満たすかを判断できません。

製品を比較する前に整理する6つの入力
入力整理すること決まっていないと
同時に接続する端末在籍人数ではなく、同じ時間帯に無線へ接続する端末の実数。業務用PC、スマートフォン、タブレット、プリンター、その他の業務端末を分けて数えます。アクセスポイントの台数と必要な収容能力を出せません
範囲と建物無線を提供する範囲と提供しない範囲、フロア数、間取り、壁や什器の構造、天井の高さと設置できる位置。設置台数と設置位置を決められません
通信の内容Web会議、ファイル共有、クラウド上の業務システム、映像の取り扱いなど、業務で実際に流れる通信の性質と時間帯。回線と機器のどちらが制約になるかを判断できません
来客用と社内用の分離来客用、業務用、管理用、映像用などを、どこまで分けるか。必要な機能と機器の構成が決まりません
有線と給電有線で接続する機器の数と位置、LANケーブル経由で給電したい機器の有無。必要なポート数と給電の条件を出せません
運用設定の変更と一次切り分けを誰が行うか。拠点が複数ある場合は、どこから管理するか。管理方式に対する要件が決まりません

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この6つは順番に確定していくものではなく、互いに影響します。来客用を分けると決めれば必要な機能が変わり、機器の選択肢も変わります。有線で接続する機器の位置が決まれば、スイッチを置く場所と必要なポート数が決まります。

在籍人数は、この6つを見積もるときの出発点としては使えます。ただし人数そのものは目安で、構成や台数を決める根拠にはなりません。

4. LANケーブル経由の給電(PoE)が必要になるとき

PoEは、LANケーブルで通信と給電を同時に行う方式です。必要かどうかは、機器の性能ではなく設置条件で決まります。

アクセスポイントは、電波を届けたい範囲に合わせて、天井や壁の高い位置に設置することがあります。その位置に電源がない場合、LANケーブルから給電できれば、電源側の工事を伴わずに設置できます。これがPoEを使う主な理由です。

逆に、設置したい位置に電源があり、そこに置いて問題がない場合は、PoEは必須ではありません。カメラやIP電話など、同じ理由で給電が必要になる機器が他にもある場合は、まとめて確認します。

  • 給電される機器が対応しているPoEの規格と電力クラスを確認します。必要な電力は機器ごとに異なります。
  • スイッチ側は、ポート単体で供給できる電力と、装置全体で供給できる合計電力の両方を確認します。ポート数が足りていても、合計が足りない場合があります。
  • 配線の経路と距離、使用するケーブルの種別を確認します。

アクセスポイントを有線で収容してPoEで給電する構成は、オフィスのLANでよく使われます。ただし構成はこれだけではなく、無線バックホールやメッシュ構成のように、アクセスポイント間を無線で接続する方式もあります。どちらが適するかは、配線の可否と求める通信品質によって変わります。

5. Wi-Fi 6 / 6E / 7 を比較するのはいつか

無線の世代は、要件が決まったあとに効いてくる比較軸です。要件より先に世代から入ると、判断の材料になりません。

無線の世代の違いは、使用できる周波数帯や、多数の端末が同時に接続する状況での扱い方などに関する仕様の違いです。新しい世代であれば常に良い結果になる、という一般化はできません。実際に差が出るかどうかは、接続する端末側が同じ世代に対応しているか、その環境で対象の周波数帯を使えるか、業務で流れる通信が世代差の影響を受ける性質のものかによって変わります。

世代を比較する意味が出てくるのは、次の条件が具体的になったあとです。

  • 同じ時間帯に接続する端末の数と、それらの端末が対応している世代が分かっている。
  • 業務で流れる通信の内容が分かっており、現在の構成で不足している点を特定できている。
  • 設置台数と配置の見当がついており、世代を変えて解決しようとしている問題が、台数や配置の変更では解決しない問題だと分かっている。
世代の表記だけから、収容できる端末数や実際に出る通信速度を導くことはできません。これらは機器の実装、電波の環境、端末側の対応、通信の内容によって変わります。台数と配置の検討は、世代の比較とは別に必要です。

国内で使用する無線機器は、機器ごとに日本の無線設備に関する制度上の適合状況を確認します。使用できる周波数帯やチャネルは、機器の仕様と制度の両方の条件によって決まります。

6. 要件が決まったあとに製品を比較する

6つの入力が埋まってから、製品の比較に入ります。比較の対象になるのは、整理した要件を満たすかどうかです。

想定する同時接続、対応する周波数帯とチャネル、給電の条件、必要な通信制御の機能、管理の方法、設置に必要な条件を、各製品の仕様で確認します。仕様の表記だけで判断できない項目は、機器メーカーの資料や既存環境の実測値で裏付けます。

この段階でも、要件を満たす製品が複数残るのが普通です。そこから先は、既存の機器との組み合わせ、運用する人が扱える管理方法、機器の更新時期といった条件で絞り込みます。

要件が整理できていない段階で特定の型番を先に決めると、あとから台数や構成を変えることになり、判断のやり直しが発生します。このページでは、特定のメーカーや型番の優劣は扱いません。

次に進める先

整理した内容に応じて、それぞれの判断を担当するページに進みます。